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第8回 シーズン1 エピソード8
すなおな反比例(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』として書籍化されています。

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高校二年生のは、いとこのユーリに比例と反比例を教えている。 でも、ユーリは反比例のグラフにどうも納得しない。

比例と反比例

ユーリ「えー、納得いかなーい!」

「どうして? 比例と反比例のグラフはこれでいいんだよ」

ユーリ「だってさ、ぜーんぜん違う形じゃん! 比例は右上がりの直線で、反比例は右下がりの直線のほうがすっきりする」

「すっきりするって言われても……わかった。じゃあね、どうして反比例のグラフがこんな形をしているかを説明しよう。 そうすればユーリもきっと納得すると思うよ」

ユーリ「比例が右上がりで増えていって、反比例が右下がりで減っていくなら、なんかちょうどいーじゃん!」

「ユーリがちょうどいいように感じても、反比例の定義ていぎからはそういうグラフの形にはならないんだよ」

ユーリ「じゃ、反比例の定義はどーゆーの?」

「反比例の定義の前に、比例の定義を復習しておこう。まずは比例。それから反比例」

ユーリ「わかったよ、お兄ちゃん。比例の定義……厳密な意味だね」

「そうそう」

比例の定義

量 $x$ と、量 $y$ と、 $0$ 以外の定数 $a$ があって、 $$ y = ax $$ という関係がいつも成り立つとする。 このとき、《$y$ は $x$ に比例ひれいする》という。

ユーリ「で? 反比例の定義は?」

「反比例の定義はこうなる」

反比例の定義

量 $x$ と、量 $y$ と、 $0$ 以外の定数 $a$ があって、 $$ y = \dfrac{a}{x} $$ という関係がいつも成り立つとする。 このとき、《$y$ は $x$ に反比例はんぴれいする》という。

ユーリ「……」

「反比例の定義、どう? 意味わかる?」

ユーリ「わかるよ。定数 $a$ があって、 $y$ が $\frac{a}{x}$ ってことでしょ?」

「そうそう。それが反比例だね。《$y$ は $x$ に反比例する》は《$x$ と $y$ は反比例の関係にある》ということもあるよ」

ユーリ「あんましピンと来ない」

「そう? 比例は $y = ax$ で、反比例は $y = \frac{a}{x}$ だから、式の形がぜんぜんちがうだろ? 反比例の式の特徴は《$x$ が分数の分母に来てる》ってことだね」

ユーリ「まー、式はそーなんだけど……」

「何が気になってるの?」

ユーリ「うーん。うまくいえない」

「そう。じゃ、少し反比例について話してみよう。反比例のグラフはこんな形になるよ。双曲線そうきょくせんという名前がついてる」

ユーリ「……」

「《比例のグラフ》は《原点を通る直線》になるけれど、《反比例のグラフ》は《双曲線》になる。式の形がまったく違うから、グラフの形もまったく違うね」

ユーリ「あ!」

「ユーリ、どうした?」

ユーリ「そこがね、納得いかないんだよー。グラフの形がぜんぜん違うのに、反対なの?」

「反対って……あ、そうか。そこが気になってたんだね」

ユーリ「比例が右上がりで、反比例が右下がりっていうのはまちがいなんでしょ?」

「うん、まちがいだね。 原点を通る直線のグラフが右上がりでも右下がりでも、どちらも比例のグラフだよ」

ユーリ「右上がりと右下がりだとちょうど反対っぽいなーって思ったんだけど」

「いやいや、ユーリ。雰囲気だけで考えちゃだめだよ。 $y = ax$ という式で、右上がりなら $a > 0$ で、右下がりなら $a < 0$ となる。 つまり、右上がりか右下がりかの違いは、定数 $a$ がプラスかマイナスかの違いなんだ。 $y = ax$ という比例の式はそのまま」

ユーリ「プラスとマイナス……そーゆー種類の反対かー」

「うん。ユーリが目を付けた《右上がり》と《右下がり》の違いは《$a > 0$》と《$a < 0$》に対応してたんだね。 その二つは、 $x$ が増えたときに《$y$ が増える》と《$y$ が減る》にちょうど対応している」

$y = ax$ のグラフの形と $a$ の関係

$$ \begin{array}{llll} \REMTEXT{右上がり} & a > 0 & \REMTEXT{$a$はプラス} & \REMTEXT{$x$が増えると$y$は増える} \\ \REMTEXT{右下がり} & a < 0 & \REMTEXT{$a$はマイナス} & \REMTEXT{$x$が増えると$y$は減る} \\ \end{array} $$

ユーリ「うーん、そっか……」

「それでね、反比例はまったく違う式の形 $y = \frac{a}{x}$ で定義される」

ユーリ「それそれ! 反対というより、ぜーんぜん違うじゃん!」

「確かにそうだね」

ユーリ「そーだよ! 直線と……なんとか曲線」

「双曲線」

ユーリ「グラフの形が、直線と双曲線みたいにぜーんぜん違う形なのに」

「じゃあね、《式の形》を少し変えてながめてみよう。おもしろいことがわかるよ。うまく《反対》が見つかるから」

ユーリ「へ? 《反対》が見つかるって、どゆこと?」

式の形を変えてみる

「まずは、比例の式から。いまはちょっと $x \neq 0$ としておく」

$$ \begin{array}{rcll} y &=& ax & \qquad \REMTEXT{比例の式} \\ y \div x &=& a & \qquad \REMTEXT{両辺を$x$で割った($x \neq 0$を仮定)} \\ \end{array} $$

ユーリ「これがどーしたの?  $y$ を $x$ で割っただけじゃん」

「比例の式から $y \div x = a$ という式がでる。この式をじっと見るとわかることがあるよ」

ユーリ「じー」

(比例)この式から、何がわかる?

$$ y \div x = a $$

「なにか、わかった?」

ユーリ「なんにも、わかんない」

「そう?  $y \div x = a$ で、 $a$ は定数だったよね。 だから、《$y$ が $x$ に比例する》とき《$y \div x$ はいつも一定いってい》だということがわかる」

ユーリ「一定ってゆーのは《変わらない》ってことだよね……それだけ?」

「そう。ユーリは《それだけ?》っていうけどさ、それってすごいことなんだよ。 $x$ と $y$ は変化する量なのに、《$x$ と $y$ は勝手に変化できない》っていってるんだから」

ユーリ「勝手に変化できない……?」

「つまり、 $y \div x$ がいつも一定の値 $a$ になってなくちゃいけないという制約せいやく……シバリがあるわけだ」

ユーリ「シバリ?」

「そう。しばられている。動けるんだけど、勝手には動けない。完全に自由には動けない」

ユーリ「ふーん」

「《$y$ が $x$ に比例する》というとき《$y \div x$ はいつも一定》になってなくちゃいけない。 そういうシバリがあるのが比例」

ユーリ「ま、そー言えないこともないか。シバリね……」

比例では、 $y \div x$ はいつも一定になる

$$ y \div x = a \qquad \REMTEXT{(一定)} $$

「そして今度は反比例だよ」

ユーリ「お? そっか、そっちが問題なんだった」

「同じように反比例の式を少し変形させてみよう。反比例の式は覚えてる?」

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(2012年12月21日)

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書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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