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第4回 シーズン1 エピソード4
連立方程式のアピール(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』として書籍化されています。

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僕の部屋

高校二年生のは、いとこのユーリに連立方程式の答え方を教えている(第3回参照)。 でも、その問題に何だか変なところを見つけてしまった。

「あれ……でも、この問題、なんだか変だな」

ユーリ「何が?」

問題 次の連立方程式を解きなさい。 $$ \left\{\begin{array}{llll} x + y & = 5 & \qquad \REMTEXT{(a)}\\ 2x + 4y & = 16 & \qquad \REMTEXT{(b)}\\ \end{array}\right. $$ 解答 $$ \begin{align*} \REMTEXT{$\REMTEXT{(b)} - \REMTEXT{(a)}\times 2$から、} \\ 2y &= 6 \\ \REMTEXT{両辺を$2$で割って、} \\ y &= 3 \\ \REMTEXT{(a)に$y = 3$を代入して、} \\ x + 3 &= 5 \\ x &= 2 \\ & && \REMTEXT{答$\, x = 2,\, y = 3$} \\ \end{align*} $$

「ほら、この$\REMTEXT{(b)}$だよ。$2x + 4y = 16$のところ。 これ、係数がぜんぶ偶数だから両辺を $2$ で割れる」

$$ \begin{align*} 2x + 4y & = 16 \\ \REMTEXT{両辺を$2$で割る} \downarrow& \\ x + 2y & = 8 \\ \end{align*} $$

ユーリ「あ、ほんとだ」

「この解き方のほうが少し楽だね」

問題 次の連立方程式を解きなさい。 $$ \left\{\begin{array}{llll} x + y & = 5 & \qquad \REMTEXT{(a)}\\ 2x + 4y & = 16 & \qquad \REMTEXT{(b)}\\ \end{array}\right. $$ 解答 $$ \begin{align*} \REMTEXT{(b)の両辺を$2$で割って、} & \\ x + 2y &= 8 \qquad \REMTEXT{(c)} \\ \REMTEXT{$\REMTEXT{(c)} - \REMTEXT{(a)}$から、} & \\ y &= 3 \\ \REMTEXT{(a)に$y = 3$を代入して、} & \\ x + 3 &= 5 \\ x &= 2 \\ & && \REMTEXT{答$\, x = 2,\, y = 3$} \\ \end{align*} $$

ユーリ「あんまし変わんないよー」

「まあ、そうかな……あ、わかったぞ。ユーリ、その宿題プリント見せて」

ユーリ「これ?」

「やっぱりそうだ。ユーリ、これはツルカメ算を意識して作った練習問題なんだね。 ほらこっちに文章が書かれているじゃないか」

問題(ツルカメ算)

  • ツルとカメが合わせて $5$ 匹います。
  • ツルとカメの足の数を合わせると $16$ 本になります。
  • このとき、ツルとカメはそれぞれ何匹ずついるでしょうか?

ユーリ「ふーん……」

「あれ、ノリ悪いな」

ユーリ「こーゆーの、めんどくさいんだよー」

「出た! ユーリ、めんどうくさがりだなあ。 もう連立方程式は解いているんだから、めんどうも何もないよね。こんなふうに考えればいい」

  • ツルが $x$ 匹いるとする。
  • カメが $y$ 匹いるとする。
  • ツルとカメが合わせて $5$ 匹いることから、 $x + y = 5$ が成り立つ。

ユーリ「はいはい……」

「これで問題に書いてある文『ツルとカメが合わせて $5$ 匹います』を $x+y=5$ という数式に移したことになるよね」

は宿題プリントを指さしながらユーリに説明する。

ユーリ「はいはい……」

「同じようにして今度は『ツルとカメの足の数を合わせると $16$ 本になります』という文を数式に移してみよう」

  • ツルの足は $2$ 本だから、ツルが $x$ 匹いれば、ツルの足は全部で $2x$ 本になる。
  • カメの足は $4$ 本だから、カメが $y$ 匹いれば、カメの足は全部で $4y$ 本になる。
  • ツルとカメの足の数を合わせると $16$ 本になることから、 $2x + 4y = 16$ が成り立つ。

ユーリ「はいはい……」

「今度は $2x + 4y = 16$ という数式に移せた。これで、問題に出てきた連立方程式が作れたことになる」

$$ \left\{\begin{array}{llll} x + y & = 5 \\ 2x + 4y & = 16 \\ \end{array}\right. $$

ユーリ「はいはい……」

「僕たちはこれで、ツルカメ算の文章を数式の世界に移したことになる。《連立方程式を立てた》わけだね」

問題(ツルカメ算)

  • ツルとカメが合わせて $5$ 匹います。
  • ツルとカメの足の数を合わせると $16$ 本になります。
  • このとき、ツルとカメはそれぞれ何匹ずついるでしょうか?
解答
  • ツルが $x$ 匹いるとする。
  • カメが $y$ 匹いるとする。
  • ツルとカメが合わせて $5$ 匹いることから、 $x + y = 5$ が成り立つ。
  • ツルの足は $2$ 本だから、ツルが $x$ 匹いれば、ツルの足は全部で $2x$ 本になる。
  • カメの足は $4$ 本だから、カメが $y$ 匹いれば、カメの足は全部で $4y$ 本になる。
  • ツルとカメの足の数を合わせると $16$ 本になることから、 $2x + 4y = 16$ が成り立つ。
ここから、次の連立方程式が立てられる。 $$ \left\{\begin{array}{llll} x + y & = 5 \\ 2x + 4y & = 16 \\ \end{array}\right. $$ これを解いて、 $x = 2,\, y = 3$ を得る。

したがって、ツルは $2$ 匹、カメは $3$ 匹いる。

答 $\,$ ツルは $2$ 匹、カメは $3$ 匹

ユーリ「はいはい……」

「ユーリ、さっきから『はいはい』しか言ってないな」

ユーリ「だって、お兄ちゃん、あたりまえのこと言ってるだけじゃん。くどいし、つまんないよ」

ユーリはポニーテールをくくり直しながら言った。

「そう? ユーリが『めんどくさいんだよー』っていうから、 お兄ちゃんがそこをやってあげたんじゃないか。代わりに」

ユーリ「こんなのわかりきってるもん。 そもそもさ、こういう問題っていちいち式を……えっと、連立方程式を書かなくちゃいけないのがめんどくさ。 お兄ちゃんの答えもそーだけど、わかりきっていることをいちいち書かなくちゃいけないじゃん?」

「うん? それで?」

ユーリ「ツルやカメってちょうどいい数なんだから、ぐっと考えればわかるんだよ」

「ちょうどいい数って、整数のこと?」

ユーリ「せーすーって何だっけ」

「がく。整数せいすうっていうのは、 $\ldots, -3, -2, -1, 0, 1, 2, 3, \ldots$ のことだよ」

ユーリ「それそれ。せーすー」

「ツルやカメの数は $0$ 以上の整数になるね。 $0, 1, 2, 3, \ldots$ だ」

ユーリ「だからさ、ぐっと考えれば解けるんだよ。 合わせて $5$ 匹、足が $16$ 本だから——うん、 $2$ 匹と $3$ 匹!とか」

「そのとき、ユーリの頭は何を考えているんだろう」

ユーリ「うーんとねー。 $5$ 匹が全部ツルだったら足は $10$ 本じゃん?」

「確かにそうだね。 $5$ 匹のツルがいて、ツルの足は $2$ 本ずつだから、 $5 \times 2 = 10$ で、足の数は全部で $10$ 本になる。それで?」

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(2012年11月22日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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